しっかり目に押された「ビビり」の烙印
「この仔、超ビビりです。あと食欲がすごくてトイレが上手です。」
たった数日の付き合いでペットショップのお姉さんが見抜いた、おはるの印象がそれ。
予防接種が終わり、飼い主としての本手続が終了した後にすっと貼られた、勇ましい秋田犬像にしては妙に気になるレッテル
…お姉さん、ちょっと貼るの遅くないか?
なんでも、初めてお店のショーケースに引っ越してきた際、腰を抜かしたまま震えて何日も動けなくなっていたのだとか。
(それでも食事の時は周りの仔よりがっついていたらしい…)
「腰を抜かす」なんて妙に具体的な言葉が出てきたくらいだから、まさにそのとおりであったのだろう。
お試しで父の腕に抱かれた際も、顔を伏せ、小刻みに震えていたし
はじめての散歩でもそうだった。
そうそう、病院の診療台に乗せた時や、散歩中にカモシカに出くわした時だって!
確かにそうだ。
ここぞという時に腰を抜かしている姿ばかり思い出される。
初めてのお散歩
閉じこもり
しっかり目に押されたビビりの烙印。
3年一緒に暮らした僕からすると「内弁慶」というほうがよりしっくりくる。
プライドだけはいっちょ前に拵えているのだ。
散歩中にうっかり出会った気の強そうな大型犬や歴戦の強者猫。
今でこそ露骨に顔を隠すようなことはしないけど、代わりに編み出した所作が、見えているのに見えていないふり。
風景に溶け込むマタギ作戦。
引き返せない状況でそれらに遭遇すれば、興味深そうにコンクリートのひび割れなんぞを凝視し絶対に目を合わせない。
そしてその歩調は失礼のない程度に2割増しで早く緩やかなカーブを描く。
まるでガラの悪い上級生と廊下ですれ違うかつての自分。
仕込んでもいないのに「お手」や「お座り」より忠実な再現度、ほんとやめてほしい。
しかも相手の姿が見えなくなると、僕の前にずいと出て名誉挽回とばかりにその態度は不自然に勇ましい。
ちゃっかりマーキングまでして、それは恥の上塗りというのだと、かつて同じ道を辿った先達としていつかそっと教えてあげようと思っている。
ビビりの根源、秋田犬てどんな犬?
人間臭さと感受性の豊かさによく驚かされることがある。
闇夜に揺れるバイクシーツ、手押し車を押すおばあさんのゆっくりすぎる歩調
地下駐車場に通じる水の滴る階段と点滅する蛍光管
おはるの怖がるそれらはその不気味さにどこか説得力があるものばかりだ。
昨年に秋田犬4頭がニューヨークの警察犬試験に落ちたのもその鋭すぎる感性が一つの要因であったと聞いた。あまりにもはっきりと訓練と本番の環境の違いを認識できてしまうがゆえにその関連付けがうまくいかないのだとか。
その人間に限りなく近い感性を携えておはるは我が家にやってきた。
そしてその感性でもって、ちょっとかなわなそうな街の猛者たちを厳正に判別し
結果、僕はただのあったか寝床としてこき使われている。
初めての出会い。
父と違いまったく怯えられることがなかった僕は近所のボス猫より与しやすく、当時ヤンキーな先輩にビビり散らした同類の気配からか、初日から妙に仲良くさせてもらっている。
野生に倣えば、当時の僕がとった生存戦略もあながち間違いではなかったのかもしれない。
Youtubeもやってます⇒秋田犬はるノ嬢@すぷりんぐちゃんねる(https://www.youtube.com/@user-zo6pt5rc2w)
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