1日4回の散歩について
1日4回、体調の優れない日でも2回は散歩をする。
朝、昼、夕、夜
外に出るたび変わる空色をまんべんなく味わってからおはるは眠りにつく。
たまに、夕の散歩を夜の部と間違えてうっかり眠りにつくものの、
はっ!と飛び起き、
のっそのっそ歩いてきたかと思えば、夢に眠る主をジーッと見下ろしている。
ふんすーっふんすーっ
エイリアンかプレデターか、
顔にかかる生温い湿った吐息に緊張し
それが下手な狸寝入りだと見抜いた瞬間
がりっがりっ!
前足で削られる頭皮の痛みにたまらず目を開ければ
ぶすっとした顔で「ちょっと!手抜いてんじゃないわよ」と女王さまは大層不満げだ。
勝手に勘違いしたくせに…。
なかなか、楽はさせてもらえない。
家族から奉仕される手間暇を彼女はこよなく愛しているのである。
その甲斐あってか、
おはるはぐんぐん成長し、僕の体重もぐんぐん落ちた。
父母と分担しながらこなしているとはいえ、
10キロ以上、急速にやつれていく僕を見て事情を知らない職場の同僚からは
「どうした?」と心配の声をかけて頂くが
「ちょっとノルマ(散歩)がきついんす」とニヒルに笑い返すことにしている。
社会人になってすっかり枯渇した
他人からの優しさや思いやりを僕もこよなく愛しているのだ。
before
after(半年後)
番外編、1日5回目の散歩について
大人になるにつれ家でトイレをしなくなった。
やたら綺麗好きなおはるは自分のテリトリーを汚したくないのだろう。
もれなく散歩に付き合うことにしているのもそんな事情がある。
あまり我慢させすぎるのもかわいそうだ。
だから彼女のもよおし具合によっては裏の番外編
深夜の5回目が存在する。
爪先で肩のあたりをちょんちょんと
さすがのおはるもしおらしく、
恥ずかしそうで、そして申し訳なさそうで
目の前に今度は幼い女の子が今にも泣き出しそうな顔で立っている。
胸元でぎゅっと結んだ握りこぶしまで見えるようだ。
深夜3時、唯一の光源はコンビニや街頭、点滅を繰り返すのみとなった信号機
車はもちろん人っ子ひとりいやしない。
催しているくせに場所選びは怠らないものだから、
道路をジグザグに走り回り、気づけば東から陽が昇る。
こうなれば1周回って僕もなんだか楽しくなってくる。
8時からの仕事なんて知ったこっちゃない。
交通ルールもあってないようなもの、誰に気を使うこともない。
西には月が、東には朝日が。
淡い紫やピンク色に彩られた空の下
冗談みたいに静かな街を独り占めにして2匹の獣が今日も走りまわっている。
Youtubeもやってます⇒秋田犬はるノ嬢@すぷりんぐちゃんねる(https://www.youtube.com/@user-zo6pt5rc2w)
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