だんだん明らかになる「おはる」という者
おはると暮らすようになって、
1週間が経ち、2週間が経ち、3週目に突入すると、
それだけでもいろんなことがわかるようになってきた。
まず、かなりのきれい好きであること。
おしっこシーツを端から使い始め一度湿ったところにはもう絶対にしない。
そんなだから狙いを誤りシーツからはみ出てしまうと恥ずかしそうにしょんぼりしている。
ふわふわの毛に隠れているのをいいことにその顔を真っ赤にしているに違いない。
次にべたべたされるのは嫌いなくせに、ほっとかれるのはもっと嫌という、秋田犬の皮をかぶった猫のような性格であること。
躾けのイロハ、お手やお座りの前に「寝たふり」を覚え、乗らない気分の時は片耳だけをピンと立てて目をつむっていたりする。
寝てる?
寝てない!
ほんといい性格してやがる…。
犬ってもっと直球勝負で生きてるものだと思っていたのに、なんかやたら人間臭いのだ。
初日帰るとはじめて家にいたそれはまだ、犬というより雲に似ていた。
ふわふわのちっちゃくてかわいらしいだけの雲。
けれど色々なことがわかってきた。
色々なことがわかってきて、ぼやけていた像にピントがあって、気づけばそれは「おはる」の形をしていた。
最初はぼやけていたその像に、
忠犬ハチ公であったり勇ましい狩猟犬、理想を重ねて勝手にどきどきわくわくもしたけれど
もう、どうしようもないくらいに「おはる」!
1月で耳もしゃっきッと立った
あれ、鳴いてなくない?
でもある日ふと「足りない」と思った。
何だろう、この違和感は?
…そうだ!まだ声を聞いてない。
この仔わが家に来てから一度も鳴いてない!
ゔーッと唸ったことはあるから声は出せるはず。
僕の腕の中でぐーすか寝ている姿を見ると緊張している様子もない。
もしかしてそういう犬種なのかもしれない。
小さいことで動じないのはおおらかな性格の証拠、それならそれでと喜んだくらいだったが同時に思う。
「声を聞いてみたい!」と。
おはるはどんな声で鳴くんだろう?
見た目のとおり「ひゃん!」だろうか、
オーソドックスに「わん!」だろうか、
さすがに性格通り「にゃーっ」はないだろうけど…。
けれどそんな無口なおはると別れを告げることになる出来事が起こる。
ひと月以上たったとある夜、いつものように居間でバラエティ番組を見ていた。
そんななか外でガザっと人が通った音がすると同時に弾けた音
「ヴぉん!!」
野太く勇ましい重低音の波に鼓膜が震える。
え、いまのなに?一瞬固まるもぐら家族一同。
まさか…とおはるの方を振り返るときゅるんとした瞳でこちらを見つめ返す姿に、再びのまさかだ。
見た目とのギャップに騙されそうになったが間違いない。
この瞬間「ひゃん!」「わん!」「にゃーっ」は全否定され、たったひとつのゆるぎない答え。
「ヴぉん!!」だった。
なんと!ぜんぜん可愛くない!!
これでまた「おはる」の輪郭が一層はっきりした。
その形が理想とはどんなにかけ離れていたとしても、真実はいつもひとつ。
そして、世界でひとつだけの花なのである。
思えばこの生後4か月、出会って1か月をかけておはるも同じだったのかもしれない。
抱かれた腕の心地よさ、おもらしした時の恥ずかしさ。
雲みたいにぼやけた世界が、
だんだん、だんだんとその輪郭がはっきりしてきて
ある程度までピントが合って、それが暗闇への恐怖心、そして守りたい場所にまで成った時、
おはるは声を必要としたのかもしれない。
そして3年たった今、おはるの目に僕はどう見えているのだろう?
それはわかりようがない。
正直、「ご主人様」としてあまり尊敬されているふうではない。
けれど「僕」という像が、「おはる」という像と同じくらいはっきりと「家族」の像を結んでいるのは間違いなく確かなことであると感じている。
Youtubeもやってます⇒秋田犬はるノ嬢@すぷりんぐちゃんねる(https://www.youtube.com/@user-zo6pt5rc2w)
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